2008年09月12日

南部鉄瓶から思いをめぐらせたこと


随分前の話になってしまいますが、メゾン・エ・オブッジェの会場では、
東洋趣味的なオブジェや展示が多く、ヨーロッパの東洋趣味は衰えて
いないなと思いました。
この南部鉄瓶も、果たして西洋の方がこの良さがわかるのだろうかと思い
ましたが、色彩やフォルムの面では随分とデザインや展示の有効な脇役
として活躍していました。モダンなモノトーンの家具のなかに、鉄という
異質なマテリアルと曲線がとても新鮮で、オブジェとしては色のコント
ラストもマッチしているのです。

そしてもう一つの東洋趣味的オブジェ。

からくり人形が縫い物をしていました。
ゆっくりと動くこのからくり人形は,一昔、ヨーロッパが想像
していた「東洋」そのものを表しているようです。中国ともいえず,
ベトナムともいえず・・・なんだかわからないけど「東洋」。

視点の位置が変わると同じ言葉でも、全く意味が違ってくることが
あります。
以前、ドイツに住んでいる頃、日本では「エスニック」と言う言葉が
大流行り。お料理でも、デザイン系でも、エスニックのアクセントが
どこにでも見られました。

丁度その頃は、ベルリンの壁が壊れ、イデオロギーのくくりから解き
放されたことで押さえられいた、民族的な目覚めがあったと同時に、
急にエスニックという言葉が流行し、自分の民族にとどまらず、
他の民族の特徴を意識するようになりました。メッセージの込められた
紋様だとか,色彩,デザイン,料理等が主流です。

ハンブルクの陶器屋さんで買い物をしていた時に「Ethono(エトノ)」
という言葉がしきりに使われていました。インテリアのショールムでも
そいう言葉があふれています。私達がいうところエスニックと言う意味
なのですが、目に入るのは、アフリカやアラブ等の部族などが掘った
置きものや、家具や飾り物。「えっ,これがエスニック???」と質問
してみました。

私はこのとき自分の視野の露出が開いていないことを痛感。
ヨーロッパにいれば「エスニック」はほぼアフリカなどを指し、
日本にいれば「エスニック」とはほぼ東南アジアなど指し、
知らず知らずにイメージングしているのだと気がつきました。
それは、自分が立っているところはどこなんだと一瞬はっと
思わせてくれる出来事でした。

それからいろいろ思いを巡らせて、じゃあ果たして大航海時代に
東洋に行きついた人達はどう感じたのだろうかと・・・・
あまりに遠いところなので「地の果て」の「異生物」に近い
感覚を持っただろうと・・・・

「エスニック」は比較的近くて少しずつでも情報が入って来る程度の
遠さにある異文化なのだと言う距離感を持っていた方があたりかなと
思いました。そして少しだけ上からものを見ている…つまり近代化が
少し遅れて、私達が忘れてしまっているものがまだ残っている世界と
いう捉え方を潜在的に知らず知らずにしていることにも気がつく。

今ヨーロッパは、回転寿司はじめ日本の一般の人々が日常に触れている
ものが商業的な形で浸透している。そこには日本人の精神文化から
それらを理解している人はほとんどいないでしょう。
昔のヨーロッパ人が東洋に憧れて取り入れてきた文化のことから
知ろうとしてくれる人、もっと深く侘び寂びにいたるまでの理解に
及んでくれる人が、どれほどいるのでしょうか。

日本の精神文化を深く追求したドイツ人哲学者のオイゲン・ヘリゲル
などのように私達日本人以上に日本人の精神文化を探求した人達に
恥じないように私達自身も,その美しさに目覚めたい・・・・

そんなことを南部鉄瓶を眺めながら思いを巡らしてしまいました。

そこで、家の裏に置いてあったおじいちゃん愛用だった古い南部鉄瓶。
最近、錆を少しだけ落として眺めていますが,今年の冬は火鉢にも
火を入れて、昔のように,しゅるしゅるという鉄瓶の音を楽しんで
みようかなと思います。

メゾン・エ・オブジェで感じた「エスニック感」でした。
  


Posted by Atelier Ms at 10:16住まい・インテリア